Angelina

江戸に火の粉が降り注いだのはもう三日も前のことだった。
過激派攘夷志士、高杉晋助。
尾を潜めていたやつがついに動き出してしまったのだ。
一夜にして江戸は火の海と化してしまった。
最初に狙われたのは、江戸城。
そしてそちらに気を取られているうちにターミナルと次々に火の手を上げていった。
真選組、見廻り組、大江戸警察と幕臣が総動員で消火に当たるも、それをまるで嘲笑うかのように高杉は次々と攻めていった。住民の被害も大きく、爆発や火事に巻き込まれて負傷するもの、息を引き取るもの、家族を目の前で失うもの、たくさんいた。

銀時たちはというと吉原にいた。桂も共に吉原に身を潜めていた。
地上は火の海、逃げ場は地下の吉原になるに他ならなかった。
神楽や新八も住民の避難に努めた。銀時と桂が率先してやっている間も攻撃は威力を弱めず、次々と起こる爆発に彼方こちらで悲鳴が絶えなかった。

「高杉め・・・あやつ一体いくつ破壊するつもりだ」
「ヅラァ!何ぼさっとしてやがる!!今はあいつのことよりこっちが先だ!!」
「っ・・・わかっておるわ!!それと銀時!ヅラじゃない!!桂だ!!」

何とか非難をさせられたものの、皆暗い表情をしており、中には泣き崩れそのまま気を失い現実から目を背ける人もいた。晴太や日輪が宿を用意し、吉原は百華が見回りをしている。怪我の手当てに追われる銀時らは、腹立たしげに上を見上げた。地上とつながった天井は今や閉じられ鉛色の無機質な天井しか見えない。

あれから三日たった今でもその鉛の天井越しにでもわかる轟音は、非難した人々の精神状態を揺さぶるのには十分だった。ところどころで発狂するもの、嘆くものが増えてきた。

「・・・ヅラ」
「ヅラじゃない、桂だ。なんだ銀時」
「俺・・・あいつ止めてくる」

そう切り出した銀時の表情は苦しげで、握られた拳は白く震えていた。
桂は、ため息一つ吐くと、そのまま銀時の横をすり抜けた。

「一人では行かせん・・・俺もいこう」
「・・・お前はここに」
「残れと言うつもりか?・・・ぶざけるな」

ぴたりと足をとめ振り返ると、泣きそうに歪んだ顔がそこにあった。
一瞬その表情に目を見張るも、睨み付けるように見返した。

「ここを・・・護ってほしいんだ」
「それはリーダー達に任せればよかろう。お前が思っているほど彼らは弱くない」
「そんなこたぁしってらぁ・・・でももし・・・鬼兵隊や春雨が攻めてきたらどうなる?ここにはばーさんや町のみんなだっているんだ・・・」

俯く銀時は吐き出すように言葉を紡ぐ。桂は険しい表情のまま銀時を睨む。
しばらく沈黙が続くが、それを破ったのは桂のため息だった。

「お前は一度決めたら頑固だからな、しかたあるまい。俺はここを護ろう」
「ヅラぁ・・・」
「ヅラじゃない、桂だ・・・だが銀時、約束しろ」
「・・・?」

真剣な目を銀時に向ける桂は険しいこのまま銀時に言い放った。

「絶対、生きて帰ると」
「っ・・・ああ、約束だ」
力強い言葉に銀時は目を見開いた。
桂は見抜いていた、相打ちになってでも高杉を止めようとしている銀時に。
銀時は驚いたような、ばつが悪そうな表情をした後、にやりと不敵な笑みを浮かべて頷いた。

「待つアル銀ちゃん」
「どこ行く気ですか銀さん」
「っ!おまえ、ら・・・」
「リーダーに、新八君・・・」

突然に入ってきた第三者の声に銀時たちは弾かれるように振り向いた。
そこには怒りの表情をしている新八と神楽がいた。

「またあんたは僕らをおいてどこかにいくつもりですか」
「新八・・・」
「銀ちゃん何度言ったらわかるアルカ!私たち三人で一心同体アル!なんで銀ちゃんはいっつも一人で行こうとするアルカ!!」
「神楽・・・俺は・・・」
「あんたがなんと言おうと僕らはあんたから離れる気はありませんからね!」
「たとえヅラが止めてもナ!!」

神楽の言葉に、ヅラじゃない桂だと返す桂はどこかほっとした顔をしていた。どんなことをしてもついていく。自分たちは離れない。という子供たちはとても逞しかった。

「さて・・・どうする?銀時」

もうここまできたら仕方ないだろう?とでもいうかのように苦笑をむける桂に舌を打ち、頭をガシガシとかき回した。

「・・・ったく・・・上は戦場なんだぞ?少しでも迷えば待っているのは死だ」
「それでも・・・あんたが一人で行って帰ってこなければ僕らは死んだも同じなんですから」
「行ってもいかなくても私たちは、銀ちゃんがいないと死んじゃうネ」

子供達のセリフに銀時は虚をつかれた顔をしてみせた。桂も神楽たちのセリフに呆気をとられたような表情をしていた。

「・・・く・・・っははは、こりゃまいったね・・・銀さん愛されちゃって」
「ははは・・・銀時、これはお前楽には死ねぬな」
「おう・・・」

俺が生きていればあいつらは死なない。あいつらが生きていれば俺は生きていける。
俺はまだ・・・死んでなんかいない。死ねない。

「・・・でもな、やっぱりおめーらは連れていけない」
「なんでアルカ!?」
「どうしてですか!?」

清々しい顔で微笑う銀時は真剣な顔をして新八たちに言い放った。

「死んでほしくねーからだよ・・・上は戦場だ、おめーらはつよい。簡単には死なねーさ。そんな生ぬるい経験は与えてねーからな」
「だったら!」
「・・・これは俺たちの・・・最後の戦いなんだ」

そういった銀時の目は、ただ真っ直ぐ上を見ていた。

あの後神楽たちは、銀時にひとつ約束を取り付けた。それは「生きて自分たちの元に返ってくること」生きたいと思う気持ちは何よりも強いとはだれがいった言葉だったか。銀時は地下を新八たちに任せ、ひとり地上へと戻った。

「こいつは・・・おもったよりひでぇな・・・」

目の前に広がるのは崩れ落ち瓦礫と化したターミナルと江戸城、そして赤く染まった空だった。その中で未だ黒煙を上げているのはターミナルだった。あそこに高杉はいる。何故かそう確信していた。銀時はきしりと腰に挿した木刀をにぎりしめた。もう片方の手には桂から渡された真剣がある。これは昔、己が彼に預けたものだった。
「待ってろ・・・高杉」

そう呟くや否や銀時はターミナルに向かって駆け出した。


+++


「ククク・・・さぁ、残りはお前らだけだ。幕府の狗ども」
「くそ・・・っ」
「つえーですねィ・・・さすがでさァ」
「トシ、総悟大丈夫か・・・?」

ターミナルでは真選組と鬼兵隊が対峙していた。現状は一目瞭然で、真選組が押されていた。見廻り組が鬼兵隊と繋がっていたからだ。一気に隊士たちは地に伏せ、今なんとか動けているのは、近藤、土方、沖田の三人だけだった。高杉は余裕の笑みを浮かべ三人に向かって刀を向けていた。背中を合わせた三人を囲むように鬼兵隊と見廻り組が囲んでいた。

「万事休すってか?」
「何言ってんでさァ・・・土方さん俺はまだやれますぜ?」
「俺だってまだやれらぁ」

冷や汗と出血で体温が下がっていくのに、こんなにも身体は熱い。ジクジクとした痛みが意識を保たせてくれている、そんな状態だった。

「・・・やれ」
「みなさん、かかりなさい」
「行くッスよおおお!!」
「ふーん?どこに?」

そのとき、その場に似合わない気だるげな声が聞こえた。と、同時に一部の隊士たちがぶっ飛んだ。どさりと落ちた隊士たちは気絶しており、眼覚める気配がない。

「やっと来たか・・・銀時ぃ!!」
「万事屋・・・っなんでここに」
「旦那ぁ・・・」
「坂田・・・」

皆が皆、様々なリアクションをしている間も銀時は、土方らを囲っている隊士や兵士だちを薙ぎ払っていく。突然現れた男に驚く間もなくのされていく様は、あっけないものだった。

「よぉ高杉・・・お前随分派手にやってくれたじゃねーの」
「いったろ・・・俺ぁただ壊すだけだと」
「俺もいったよな?次会ったときは斬るって」

殺伐とした空気に、土方達も気を引き締めなおした。銀時が来たことにより少し余裕ができた。動けるものが少ない今、少しでも士気が上がれば上々。高杉は銀時に任せ、自分たちは周りの敵に専念することに決めた。

「なぁ高杉・・・何がここまでお前を歪ませちまったんだ・・・先生の死か?仲間の死か?それとも両方か?」

銀時は木刀と真剣を構えながら高杉に問うた。その目は真剣で、普段のやる気のない赤い瞳ではなかった。鈍く光を放つ鋭い眼光に高杉は笑みを消した。

「俺たちだってそれは同じだ!なのに・・・どうしてこうも違った、どうしてこうも道が違う高杉!」
「・・・せえ」
「・・・高杉?」
「うるせぇっ!!」

声を荒げた高杉に銀時は閉口し、土方達は剣を止めて二人をみた。それは鬼兵隊のやつらも同じだった。

「じゃあ逆にてめぇはなぜこんな腐った世界をのうのうと生きていられる?俺たちから先生を、仲間を!未来を!希望さえ奪って見捨てたこの世界を!!なぜ壊そうとしない!?」

そう怒鳴った高杉は感情的で、先ほどまでの余裕な笑みは浮かんでいなかった。銀時は痛そうな顔をして高杉を見ている。

「俺はそれが解せねぇ・・・ヅラがいってやがったよ、この世界を誰よりも憎んでんのは銀時、てめぇだとなァ・・・俺もそう思う、思っていた!だが実際はどうだ?お前は牙を失くし、この世界でぬるま湯に浸った生活を送ってやがる!俺はそれが許せねぇ!」
「なぜ?」
「あぁ?」

高杉に言葉に銀時は静かに返した。
銀時はもう一度、なぜ?と聞いた。

「俺は確かに・・・この世界も、幕府も、天人も、人間も、全部嫌いだ。憎いとすら思うさ、だけど・・・だけどなぁ!この世界は!!先生が愛した世界でもあんだよ!!先生が愛したこの世界をぶっ壊そうなんてなぁ!俺は嫌だね!」

そう叫んだ銀時は泣きそうに表情を歪ませていた。高杉は目を一瞬見開くも、苦々しげに口元を歪ませた。

「その先生を奪ったのは・・・この世界じゃねーかっ!」
「っ・・・・・・そ、れは」
「そうだろう!この世界を愛したって!!先生はこの世界に!幕府と天人に殺されたじゃねーか!国のためと戦った俺たちにこの世界はなにをしてくれた!?天人に恐れて、戦っている俺たちを見捨てたじゃねーか!」
「・・・っでも」
「それでもお前は!この世界が・・・っこの連中が大事かよ・・・っ」

最後の言葉は苦しげで、高杉は銀時の後ろにいる土方達を睨み付けた。

「ああ・・・大事だよ。だってこいつらは、今の俺の仲間だ」

銀時の言葉に後ろにいた土方たちが息をのんだ。いつもいがみ合っていた銀時の口から仲間だと言ってくれたことに喜びを感じた。

「だから・・・これ以上俺の仲間に手を出すな、高杉」

もう一度刀を構えなおした銀時に高杉は目を鋭くさせ、いつも使う仕込み刀ではなく、真剣を取りだし、構えた。

「もうお前に何を言っても無駄のようだなぁ・・・銀時ぃ」
「俺はお前を斬る、それだけだ」

そういった、銀時は一瞬だけ、土方達の方に目を向けた。

「だん、な・・・?」

こっちを一瞬だけみた銀時の目はなにか覚悟を決めた目をしていた。それに気づいたのは沖田だった。一瞬、本当に一瞬だけ、悲しげに微笑った気がするのだ。

「いくぜ、高杉ぃいいい!!!」
「銀時ぃいい!!」

お互いの名を叫びながら衝突した二人は、目に留まらない速さで刀を合わせていた。
激しく鳴り響く金属音に飛び散る赤と火花。それらが二人の戦いの激しさを伝えていた。
鬼兵隊も高杉が心配なのか二人の方を眺めたまま動かない。

「近藤さん、土方さん・・・」
「なんだ総悟」
「旦那が・・・」
「万事屋がどうかしたのか」

沖田は不安げな目を二人に向けた。

「旦那はきっと・・・死ぬ気でさァ」

沖田はゆらりと自分の目が揺れたのを自覚した。

激しさを増す二人の戦いは、そろそろ終焉へとむかっていた。両者ともに傷を負い、至る所から出血していた。ハァハァと肩で息を乱す二人はお互いを見たまま剣を止めた。

「クク・・・牙を失くしたわりには・・・やるじゃねぇか・・・銀時ぃ」
「っるせーよ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「体力的にも次でしめーだ・・・銀時」
「ああ・・・そうだな」

そういって、二人は、刀を構えた。銀時は木刀を投げ捨て、真剣を構える。

「じゃあな・・・高杉」
「さよならだ・・・銀時」

にやりと嗤いふたりは同時に駆け出した。

「うぉおおおおおお!」
「うぉおおおおおお!」

ザシュ・・・ッ

ボタボタと落ちる血液に、ゴハッと血を吐き出した音が沈黙に落ちた。
パタパタと地面に赤い染みを作るのは…銀時だった。
真選組も鬼兵隊も見廻り組も唖然としていた。一番驚いたのは高杉だった。

「お・・・まえ・・・どうして・・・」
「ぐ・・・っ、あーいてぇ・・・ごふっ」

銀時は高杉と対峙する瞬間に刀をすて自ら高杉の刀に向かっていった。寸前で高杉が気付き刀の軌道をずらさなければ銀時は即死だっただろう。銀時は高杉を抱きしめる格好をしていた。肩口にある銀時の口からは血が溢れ、苦しそうに息をしている。高杉が身体を離そうとすれば抱きしめ、それによりさらに深く刀が銀時に突き刺さる。背中から生えた刀は真っ赤に濡れ、赤い雫が滴っていた。

「ば、かやろう・・・なんで」
「お前さ・・・少しは周りを・・・みろよ・・・」
「しゃべんなっ・・・いくら急所避けたとはいえ刀ささってんだぞっ」
「おま、えは孤独だったんだろ・・・せんせ・・・を失ったあの日から・・・」

銀時が苦しげに話すのに、高杉は息をつめて聞いた。

「ぐぅ・・・っは、・・・寂しかったよな・・・?痛かったよな・・・?」
「ちがう・・・違う!」
「俺はね・・・知ってるよ、たか・・・晋助がさ・・・ほんとうは優しいって・・・こと」
「っ・・・!」

懐かしい呼び名に銀時を凝視する。高杉の手には先ほどから銀時の血が伝っており、もう手は真っ赤だった。このままでは銀時は出血多量で死んでしまう。

「銀時、もうしゃべんじゃねぇ・・・血が」
「道が見えないなら・・・俺が照らしてや、るよ・・・道を間違えたなら俺たちが戻してやるよ・・・」
「なぁ、もうしゃべんなっ」
「自分(てめぇ)で自分を…愛してやんねーで・・・どうすんだ・・・よ」

銀時の身体から力が抜けた。とっさに、これ以上刀が傷を与えないように素早く抜き取った高杉は、己の包帯を銀時の腹に巻いた。止血するも血は溢れ、銀時呼吸は浅く早くなってきていた。

「おま、えは・・・自分自身すらも・・・憎んで、んだ・・・ろ?」
「くそ、血が止まらねぇ・・・っ」
「はは、晋助・・・おめーは、独りじゃない・・・俺が・・・一緒にいてやるよ・・・弱音も全部・・・俺が」
「ならぜってぇ死ぬんじゃねぇ!じゃねーと独りにかわりねーじゃねーか!」

高杉の言葉は聞こえているのか居ないのか・・・銀時はぼぅっと上を見ていた。

「俺は・・・まだ死んでなんかいねぇ・・・よ・・・死ねねーもん・・・だから、前を向いて・・・一緒にいきよう・・・お前は・・・仲間以上に・・・家族だ、ろ・・・しんす、け」

ゆらりゆらりと揺れる紅は高杉をみてふわりと微笑うとそのまま瞼に隠された。すぅっと腕が垂れ下がり、一気に体重を預けた銀時に高杉は抱き留め、銀時を地面に横たわらせた。
脈はまだあるが非常に弱い、呼吸も深くなってきた。

「っち、血ぃながしすぎだ!ばかやろうっ・・・っ寝るな!銀時!死ねないんだろう!!今寝たらおきれねぇぞ!」

高杉は自分の着物を裂き、包帯の上からさらにきつく縛る。一刻も早く手当して輸血しなければ確実に銀時は死んでしまう。

「万斉!!船を呼べ!こいつを医者に!!はやくしろっ!!」
「っ、しょ、承知したでござる」

今の今まで時が止まったかのように二人に見入っていた土方達は、事の重大さに顔を真っ青に染めた。

「だ、旦那!死なねーでください!!旦那!!」
「おい!救護班はすぐに包帯と針をもってこい!!すぐだ!!」

ばたばたと慌ただしく動き始めた周りなど全く耳に入っていない高杉は銀時の弱まっていく脈と呼吸にただただ青ざめていた。

「これだから、平凡は・・・」

そう呟いたのは、いまの今まで黙って事の成り行きを見ていた佐々木だった。
かちゃり、と音がしたと同時に二発。銀時に銃弾が撃ち込まれた。

突然の出来事に皆が皆動きを止めた。煙りと立たせる拳銃をもつ佐々木に、唖然とその矛先をみた。高杉は目の前の銀時が打たれたのを凝視していた。

「き、貴様ぁあ!!」

いち早く立ち直った沖田が佐々木に斬りかかった。が、信女が立ちはだかる。

「のきなせぃ!」
「だめ」
「旦那によくも・・・っ」
「よくみて、彼は別に止めをさされたわけじゃない。むしろ逆」

信女が沖田の刀を薙ぎ払い、指を指した。高杉も言われてハッとなり、銀時をみた。
二発、それぞれ、なにか薬品のようなもの入った注射器らしきものが刺さっていた。

「造血剤と止血剤ですよ」
「な・・・っ」
「エリートにぬかりはありません。医者を待っている間に死なれては元も子もないでしょう」

そういって、佐々木は携帯を取り出した。
かたかたとしばらくいじると、携帯を閉じ、高杉の元へと向かう。
高杉は未だ銀時の傷を止血するために抑えており、その顔から焦りは消えていなかった。

「高杉さん、私はこの辺で撤退させてもらいます。もう暫くすればここに坂田さんのお仲間が来るでしょう。桂さんもいっしょに」
「なに・・・?」
「いま、メールしておきました。メル友なんです。彼らと」

そういって携帯をみせる佐々木に高杉は睨みを利かせた。
肩を竦め、佐々木はくるりと踵をかえすと、信女をつれてその場からさっていった。

「おい・・・」
「なんでさぁ」
「銀時を・・・頼む」

高杉は銀時を見つめたまま真選組に言葉を投げる。

「それ、おめーがいねーとだめなんじゃねーのか?」

土方が苛立たしげに煙草を吹かす。救護班はまだか・・・とあたりを見渡すも、まだ見えない。

「俺は・・・万斉が戻ってき次第ここを離れる・・・」
「・・・させ、ね・・・ぞ・・・のやろう」

か細い声が聞こえた。
驚いて目線を下げれば、うっすら目を開けた銀時が高杉を睨んでいた。

「さん、ざ・・・いって、やったてぇ・・・の、に」
「ぎん・・・とき」
「おまえ、おれを・・・おいて、またいなくなる・・・き、か?」

辛そうに話すも意識が回復したのは救いだった。佐々木が打った薬のおかげもあるだろうが、銀時の生命力にはいつも驚かせられる。

「・・・ばかやろう、いつもふらっとどっかいくのはおめぇだ、ばか」
「あれ?そ、だっけ・・・てか、二回もばかって、いったな、このやろう・・・」

ふふ、と可笑しそうに微笑う銀時に高杉も自然な笑みが浮かぶ。

「ああ・・・それだ」
「あ?」
「その・・・笑顔が、見たかったん、だ・・・」

銀時が嬉しそうに目を細めて高杉の頬を撫でた。
そのまま目を閉じるとぱたりと手を落とした。

「ぎ・・・っ」

焦った高杉が銀時の手を取ると、先ほどよりはしっかりとした脈が伝わってきた。

「・・・ったく・・・ねてやがらぁ」

すーすーと眠っている銀時に安堵の表情を浮かべた高杉は、どこか清々しげだった。

もうすこしで迎えがくる。
そうすればこいつはまたあの笑顔の中に帰れる。こんな血なまぐさいところじゃない、平和の中に。

「俺にぁ・・・そこはぬるすぎらぁ・・・」

だけど・・・そうさねぇ・・・

たまにはそんなぬるさもいいかもしれないな・・・


Angelina
END